01
島から島へ航行中のグランサイファー
その甲板で、独り、風に吹かれながらヴェリトールが物思いに耽っていた。

ふふ、皮肉なものです……
空はこうも晴れ渡っていると言うのに、私の心は少しも晴れてくれませんね。


02
あの…… ヴェリトールさん?
ああ、ルリア君。 どうされましたか。
えーっと、これ、冷凍マグロが……
ヴェリトールさんにって……


一通の封書であった。
ヴェリトールは小首を傾げ、やや思案した後、その封を切る。

03
なぁなぁ、どんなことが書いてあるんだ?
ふむ…… どうやら招待状のようです。
うん? 招待状? 何の招待状なんだ?
差出人は……テレーズさん。
ジュエルリゾートの特別試合のチケットが入っています。

04
わぁ、特別試合ってデュエルのことですよ。
へへっ、そうと決まれば近くの町で準備しねーとな!
ふふ、そうですね。
パーティー用の素敵な服も買わないとですね。

じゃあ、そうと決まれば、冷凍マグロに相談だ!
05
行くぞ、めそめそ兄ちゃん!

いえ、待ってください、私はまだ出席するとは──

06
ふふ、ヴェリトールさん、とっても似合ってますよ。
ふふ、問答無用ですか…… まったく、せっかちな人達です。

ジュエルリゾートへやって来た一行が、パーティ会場で雑談をしていると──
背後から女性の声が聞こえた。

07
あのぉ……パーティーはお楽しみいただけていますか……?
はわわ~、綺麗なひと…… それに可愛いお洋服です。
あ、あうう……言わないでください……
すごく恥ずかしいんですから……

なんだぁ? オイラもカッコイイと思うぞ。
あっ、あのっ、申し遅れました。
私はテレーズ、今夜出場予定のデュエリストです。

08
ああ、貴方がテレーズさんでしたか。
この度は素敵なショーにお招きいただき心から感謝致します。

わ、私……いえ…… 気にしないでください……
ですが、どうして…… 私などに招待状を?
えっと……その……
あなたが、ショーが好きだとうかがったもので……

09
誠に申し上げにくいことですが、
ショーと申しましても、私が好むのは喜劇でしてね。
折角ですが、斯様なショーはどうにも趣味に合いませんで、
ご遠慮させていただこうかと……


そう言ってヴェリトールはポケットから封書を取り出し、すっと差し出した。
しかしそれを見たテレーズは受け取ろうとはせず、不敵な笑みを浮かべて語り始める。

10
うふふ、ご存知ですか?  
デュエルのチケットはプラチナチケット。
出場者の私でもなかなか手配できません。
さて、と……そろそろ試合の準備を。
連勝記録のかかったスペシャルマッチ。  
是非見て欲しかったのですが……

11
……そうだったのですか。 さぞご苦労をおかけしたことでしょう。
そうとも知らず、大変な御無礼を……

うふふ、それにあなただって、
わざわざ断るためだけに正装して来た訳ではないはずよ……

ふふ、言われてみれば…… 天邪鬼は右目だけではなかったか……
12
撤回致しましょう。
素直にご厚意に甘えておくのがよろしいようで……

任せて、私が貴方をたっぷり楽しませてあげるから……

テレーズとファスティバのデュエルが始まった。
ふたりは挨拶代わりと言わんばかりに、息の詰まる攻防をスリリングに展開する。
そして芝居がかったコミカルな台詞で観客を煽り、
会場を笑いと興奮の渦に一気に引き込んだ。
会場の熱気が最高潮に達した時、ふたりの真剣勝負が幕を開けた──

13
うふふ、どうだったかしら? 私のデュエルは……
実に素晴らしい! 至芸です!
貴方は最高のエンターティナーですよ!
この愉快なショーを見ていなければ、
私の人生はどれほど寂しいものになっていたことでしょう!

わ、私……大袈裟です。 あの、あまり褒めないでください……
恥ずかしいですから……


と、照れ笑いをしていると、ふと、テレーズは気づいてしまう。

14
……あのぅ?
そんなに楽しそうにしているのに、どうして涙を流しているんですか?

あ、テレーズさん、それはですね……

止めに入るルリアであったが、
ヴェリトールはそれをそっと制して優しく微笑みかける。

15
いえ、いいのですよ。
素晴らしいショーを見せてくれたお礼をしなければなりません。
ほんの少しだけ……
この止まらない落涙の理由をお聞かせ致しましょう。


16
どれほど前のことなのか解りません。
その時、私には婚約者がおりました。
彼女は商家の娘で、笑うと向日葵のように愛らしいひとでした。
しかし、彼女の家は商売で大失敗し、多額の負債を背負った上、
債権者に家族を殺されてしまったのです。
彼女だけは何としても守らねば──
騎士の私はその一心で領主を裏切り剣をとったのです。
ですが…… ついに私も彼女も捕縛され、後は極刑を待つのみ……

17
なあ、裏切りの騎士よ。
恥辱の生か、栄誉ある死か、貴様に選択の自由をくれてやろう。

私は裏切ってしまったのです。
彼女の命を救うため、
何も持っていなかった私は自分自身を売り払ったのです。

18
はっはっはっ…… そうか、恥辱の生を選んだか!
名誉と栄光の騎士も人の子だったなァ!

はぁ、詰まらぬ夢を見たものだ。
所詮、種族を越えた恋…… 元より叶うべくもあるまい。
なぁに、案ずることはない……
ワシを裏切った報いだ、貴様の名誉、死ぬまで利用してやる!

19
債権者代表の領主は、
己の娘と私が結婚することを条件に、彼女の全てを赦免しました。
全ては彼女のため──
彼女さえ救われれば、彼女さえ幸せであればいい。
そう思っていたのは私だけだったようです。

20
…………
私を見る彼女の顔に笑顔はありません。 怒りはおろか、嫌悪さえありません。
ただ静かに涙を流すだけでした。
私の眼球には、その時の光景が罪人の烙印の如く焼き付き、
幾度生まれ変わろうとも消えないのです。


21
私は思い出せません。
あの時、彼女は涙を流しながら何かを言った気がするのですが……
それが何であったのか、私はどうしても思い出せないのです……


ヴェリトールはそう言って、
溢れる涙を惜しむように瞳を閉じて沈黙した。
それが、彼と同じく転生を続け止まらぬ涙を流すという女性を探す、
ヴェリトールの理由の全てだった。

22
……あの、ヴェリトールさん。 大丈夫です、必ず見つかりますよ。
そうだな、心配ねぇって!
冷凍マグロも一緒に探してくれるし、なぁ、そうだろう?

>彼がそこまで想う女性、会ってみたいね
へへっ、だよなぁ。 どんな人なんだろうなぁ……
ふふ、きっとお似合いのふたりですよ。 絶対に出会って欲しいです。
23
そうね……ショーで呼びかけてみる?
人気のショーだから、誰か知ってる人いるかも知れないし……

皆さん…… 本当にありがとうございます。
へへっ、やっといい顔になったぜ。
良かったな冷凍マグロ、苦労して招待状出した甲斐あったじゃねーか。

24
ビィさん、ダメですよ! それは内緒にするって……
うわっ、やっちまった!?
なるほど……そういうことでしたか。
ここのところ塞ぎ込んでいましたから、
余計な気を遣わせてしまいましたね……

25
ふふ、まったく酷い人達だ……
右目だけでは足らず、左目まで止まらなくしてしまうおつもりですか?
この、とめどない嬉し涙で……


そう言ってヴェリトールは両の目からぽろぽろと涙をこぼす。
冷凍マグロ達は柔らかに微笑み、彼の旅の行方に想いを馳せる。
ヴェリトールの深い想いに触れ、
彼の旅を見守り続けようと静かに胸の中で誓うのだった──

3030183000_01
3030183000_02

※テレーズと初対面になっているのは、2巡目の世界(DMMアカウント)だからです。