
島から島へ航行中のグランサイファー
その甲板で、独り、風に吹かれながらヴェリトールが物思いに耽っていた。
ふふ、皮肉なものです……
空はこうも晴れ渡っていると言うのに、私の心は少しも晴れてくれませんね。

あの…… ヴェリトールさん?
ああ、ルリア君。 どうされましたか。
えーっと、これ、冷凍マグロが……
ヴェリトールさんにって……
一通の封書であった。
ヴェリトールは小首を傾げ、やや思案した後、その封を切る。

なぁなぁ、どんなことが書いてあるんだ?
ふむ…… どうやら招待状のようです。
うん? 招待状? 何の招待状なんだ?
差出人は……テレーズさん。
ジュエルリゾートの特別試合のチケットが入っています。

わぁ、特別試合ってデュエルのことですよ。
へへっ、そうと決まれば近くの町で準備しねーとな!
ふふ、そうですね。
パーティー用の素敵な服も買わないとですね。
じゃあ、そうと決まれば、冷凍マグロに相談だ!

行くぞ、めそめそ兄ちゃん!
いえ、待ってください、私はまだ出席するとは──

ふふ、ヴェリトールさん、とっても似合ってますよ。
ふふ、問答無用ですか…… まったく、せっかちな人達です。
ジュエルリゾートへやって来た一行が、パーティ会場で雑談をしていると──
背後から女性の声が聞こえた。

あのぉ……パーティーはお楽しみいただけていますか……?
はわわ~、綺麗なひと…… それに可愛いお洋服です。
あ、あうう……言わないでください……
すごく恥ずかしいんですから……
なんだぁ? オイラもカッコイイと思うぞ。
あっ、あのっ、申し遅れました。
私はテレーズ、今夜出場予定のデュエリストです。

ああ、貴方がテレーズさんでしたか。
この度は素敵なショーにお招きいただき心から感謝致します。
わ、私……いえ…… 気にしないでください……
ですが、どうして…… 私などに招待状を?
えっと……その……
あなたが、ショーが好きだとうかがったもので……

誠に申し上げにくいことですが、
ショーと申しましても、私が好むのは喜劇でしてね。
折角ですが、斯様なショーはどうにも趣味に合いませんで、
ご遠慮させていただこうかと……
そう言ってヴェリトールはポケットから封書を取り出し、すっと差し出した。
しかしそれを見たテレーズは受け取ろうとはせず、不敵な笑みを浮かべて語り始める。

うふふ、ご存知ですか?
デュエルのチケットはプラチナチケット。
出場者の私でもなかなか手配できません。
さて、と……そろそろ試合の準備を。
連勝記録のかかったスペシャルマッチ。
是非見て欲しかったのですが……

……そうだったのですか。 さぞご苦労をおかけしたことでしょう。
そうとも知らず、大変な御無礼を……
うふふ、それにあなただって、
わざわざ断るためだけに正装して来た訳ではないはずよ……
ふふ、言われてみれば…… 天邪鬼は右目だけではなかったか……

撤回致しましょう。
素直にご厚意に甘えておくのがよろしいようで……
任せて、私が貴方をたっぷり楽しませてあげるから……
テレーズとファスティバのデュエルが始まった。
ふたりは挨拶代わりと言わんばかりに、息の詰まる攻防をスリリングに展開する。
そして芝居がかったコミカルな台詞で観客を煽り、
会場を笑いと興奮の渦に一気に引き込んだ。
会場の熱気が最高潮に達した時、ふたりの真剣勝負が幕を開けた──

うふふ、どうだったかしら? 私のデュエルは……
実に素晴らしい! 至芸です!
貴方は最高のエンターティナーですよ!
この愉快なショーを見ていなければ、
私の人生はどれほど寂しいものになっていたことでしょう!
わ、私……大袈裟です。 あの、あまり褒めないでください……
恥ずかしいですから……
と、照れ笑いをしていると、ふと、テレーズは気づいてしまう。

……あのぅ?
そんなに楽しそうにしているのに、どうして涙を流しているんですか?
あ、テレーズさん、それはですね……
止めに入るルリアであったが、
ヴェリトールはそれをそっと制して優しく微笑みかける。

いえ、いいのですよ。
素晴らしいショーを見せてくれたお礼をしなければなりません。
ほんの少しだけ……
この止まらない落涙の理由をお聞かせ致しましょう。

どれほど前のことなのか解りません。
その時、私には婚約者がおりました。
彼女は商家の娘で、笑うと向日葵のように愛らしいひとでした。
しかし、彼女の家は商売で大失敗し、多額の負債を背負った上、
債権者に家族を殺されてしまったのです。
彼女だけは何としても守らねば──
騎士の私はその一心で領主を裏切り剣をとったのです。
ですが…… ついに私も彼女も捕縛され、後は極刑を待つのみ……

なあ、裏切りの騎士よ。
恥辱の生か、栄誉ある死か、貴様に選択の自由をくれてやろう。
私は裏切ってしまったのです。
彼女の命を救うため、
何も持っていなかった私は自分自身を売り払ったのです。

はっはっはっ…… そうか、恥辱の生を選んだか!
名誉と栄光の騎士も人の子だったなァ!
はぁ、詰まらぬ夢を見たものだ。
所詮、種族を越えた恋…… 元より叶うべくもあるまい。
なぁに、案ずることはない……
ワシを裏切った報いだ、貴様の名誉、死ぬまで利用してやる!

債権者代表の領主は、
己の娘と私が結婚することを条件に、彼女の全てを赦免しました。
全ては彼女のため──
彼女さえ救われれば、彼女さえ幸せであればいい。
そう思っていたのは私だけだったようです。

…………
私を見る彼女の顔に笑顔はありません。 怒りはおろか、嫌悪さえありません。
ただ静かに涙を流すだけでした。
私の眼球には、その時の光景が罪人の烙印の如く焼き付き、
幾度生まれ変わろうとも消えないのです。

私は思い出せません。
あの時、彼女は涙を流しながら何かを言った気がするのですが……
それが何であったのか、私はどうしても思い出せないのです……
ヴェリトールはそう言って、
溢れる涙を惜しむように瞳を閉じて沈黙した。
それが、彼と同じく転生を続け止まらぬ涙を流すという女性を探す、
ヴェリトールの理由の全てだった。

……あの、ヴェリトールさん。 大丈夫です、必ず見つかりますよ。
そうだな、心配ねぇって!
冷凍マグロも一緒に探してくれるし、なぁ、そうだろう?
>彼がそこまで想う女性、会ってみたいね
へへっ、だよなぁ。 どんな人なんだろうなぁ……
ふふ、きっとお似合いのふたりですよ。 絶対に出会って欲しいです。

そうね……ショーで呼びかけてみる?
人気のショーだから、誰か知ってる人いるかも知れないし……
皆さん…… 本当にありがとうございます。
へへっ、やっといい顔になったぜ。
良かったな冷凍マグロ、苦労して招待状出した甲斐あったじゃねーか。

ビィさん、ダメですよ! それは内緒にするって……
うわっ、やっちまった!?
なるほど……そういうことでしたか。
ここのところ塞ぎ込んでいましたから、
余計な気を遣わせてしまいましたね……

ふふ、まったく酷い人達だ……
右目だけでは足らず、左目まで止まらなくしてしまうおつもりですか?
この、とめどない嬉し涙で……
そう言ってヴェリトールは両の目からぽろぽろと涙をこぼす。
冷凍マグロ達は柔らかに微笑み、彼の旅の行方に想いを馳せる。
ヴェリトールの深い想いに触れ、
彼の旅を見守り続けようと静かに胸の中で誓うのだった──


※テレーズと初対面になっているのは、2巡目の世界(DMMアカウント)だからです。
コメント
コメント一覧
なんだいつものグラブルっじゃん!
問題はないのだが・・・
ってあるし、運命の人がヒューマンだからヒューマン以外だろう
どうだろうなあ。全年齢向けだから、体調比のサイズとか、持続時間とかが示されたことがないだけだろ
ドラフが牛さんと同じなら、男はいろいろつらいぞ