01
冷凍マグロ一行はとある村の依頼を受け、陸路で大荷物を運んでいた。
しかし、村に通じる山道には巨大な茨が行く手を阻み、
これ以上進むことができなかった。


02
おいおい、トゲトゲだらけだぞ!?
ったく、しょーがねーなぁ…… 冷凍マグロ、薙ぎ払ってくれよ。


冷凍マグロは茨の前に立つと、重心を落とし腰を低く構えた。
そして、ゆっくりと武器を振り上げた── まさにその時。

03
やめてください! あんたら、ダメだ。 何てことしてんだ!
なんだなんだぁ? おっちゃん、何がダメなんだ?
その茨は強烈な毒をもっててな、素人が触れようもんなら一斉に撒かれちまう。
とにかく、ワシら木こりでも滅多に近寄らねぇ毒樹だぞ。

04
はわぁ…… 危ないところでした。
おじさん、ありがとうございます。

でもよぉ、どうすんだ?
オイラ達、この先の村へ荷物届けなきゃなんないんだぞ。

ああ、そうでした。 どうしましょう……
05
ああ、だったら一端下山して、回り道すればいい。
下の道なら毒樹は生えてねぇ。

いやぁ、それがよぅ……
どうしても今日中に届けなきゃいけないんだよ。

ふーむ、だったら…… うちの村へ来なっせえ。
森の床屋さんとこに頼むといい。

06
って、ええっ!? なんで床屋さんなんだ?

一行は近くの村へと引き返し、木こりに言われたある民家までやってくる。
すると、そこには庭師の看板が掛けてあるのだった。

07
なぁんだ、床屋さんっつうから何かとおもったら……
庭師のおっちゃんじゃねーか。

ん? 何だね、君達。 私達に何か用かね。
えーっと…… 実はですね……

ルリアは庭師の夫婦に事情を説明して、茨の毒樹を伐採してもらうようお願いする。
しかし庭師の夫婦は渋い顔をして、申し訳なさそうにこう切り出すのだった。

08
うーん、困ったねぇ……
受けてあげたいのは山々なんだけどねぇ。

うむ、そうなんだよ。
ワシら、これから麓の町まで降りて、街路樹の剪定をせねばならんでな。

はうぅ…… そうなんですか?
それは困りました。

09
だったら、私が行ってきてあげるよ!
あら、そう言えばあんたがいたねぇ。

突如、割って入ってきた若いエルーン女性はコワフュールと名乗った。
彼女は剪定技術を学ぶため、
この村の庭師夫婦のところへ居候しているのだと言う。

10
ふーむ、でもなぁ…… コワフュール一人で大丈夫かな?
あの山道の茨でしょ? 余裕余裕~♪
前に一度カッティングしてるもーん。

え……? かってぃんぐ?

11
おいおい、本当に大丈夫かぁ?
何だかやたらフワフワしたねーちゃんだけどよぅ……


しかしそんなビィの心配をよそに、コワフュールは毒の茨の前に立つと、
真剣な眼差しで大バサミを振り上げる。

12
それじゃ、いっくよー♪
草木をお花色に染める天然由来のオーガニックカラ~

なんだなんだぁ? なんか始まっちまってんぞ!?
えー、ウッソ~ それ自分でやったの~!? バクチじゃ~ん。
ほらほら~ シリアスダメージ出ちゃってる~
うーん…… 色も大分まばらってるね。
リタッチして染め直そっか?

13
わあ! すごいです!
みるみる毒々しい葉っぱの色がお花みたいにキラキラに……

もー、大~丈~夫~♪
ライトニングで元色生かしちゃうからケバケバしくやんないってば~
あ、グラデーションもつけて~ ギラギラは下品だから~
ここは敢えてのマット感出して~
レングス調えたらルックも変わるよ!
ね、ね、ほら、レイヤーボブで立体感を盛っちゃって~♪

14
ゥヒッ、どうなってんだぁ?
ちょきちょき切ってんのに全然毒が出てこねぇぞ!?

うーん…… まだ、ちょっと重いかな~?
良い感じに量感調整しとこっか♪
あ! やっぱり毛先は~ ポインティングカットでエアリー決めちゃう?
それとも~、ふわんふわん♪ タンポポの綿毛みたいに~?
フリックでいっとこっか!

15
あー、モイスチャー! 最近、ちゃんと潤ってるぅ?
心まで渇いちゃったら女子失格だよ♪
ふふふ…… 余分にいれとこうね ミスト、ミスト~♪


コワフュールは不思議な剪定術でみるみる毒の茨を刈りそろえ、
小さなトンネルをこさえていく。
コワフュールのおかげで一行は無事に目的の村まで辿り着き、
期日通りに荷物を届けることができた。
こうして冷凍マグロ達は、多くの笑顔に見送られながら村を後に、
コワフュールの家まで戻って来た。

16
いやぁ、助かったぜ。  森の床屋さんってのはよく言ったもんだよな。
でも……不思議です。 どうして全部刈り取ってしまわなかったんですか?
私達、オーガニックスタイラーは何より自然を大事にするの。
だからカットも必要な分だけ。

うん? なんでだぁ? 
だってよぅ、あのままだと毒が出てみんな危険じゃねーのかよ。

17
ふふ、ねぇ、知ってる?
あの茨、10年前までは毒なんてなかったんだよ?

なんだってぇっ!?
せっかく自力で生きているのに、人間の都合で勝手に形を変えられたり、
伐採されるから自然は自衛する……
だから私の一族は、自然と共生する為の新しい作庭技術を磨いてきたの。

18
えーっと…… それが……おーが、にっく?
そう、それが私、オーガニックスタイラーよ♪
私、初めて見ました。 そんなすごい庭師さんがいるんですね。
そうなの~、あなたの言う通り。
こんな片田舎でやってるだけだと、全然広まらないんだよね……

19
よし、決めた! 私、あなた達についていく。 ねえ、いいでしょ、団長さん?
>うーん、ビィの髪カットできる?
うーん……どうだろ…… ビビッドなカラーはいいよね。
うんうん、ビィだけにな。
って、へへ、正直何言ってんだかオイラもわかってねーぞ。

20
うーん、バージンヘア生かして~ フロント重めの、ネープレス上等の~
ってそうなると、やっぱり……
うん、ヘッドシェイプかな♪
なんだなんだぁ? へっどしぇいぷ? へへ、カッコイイ響きだな。
えへへ…… ひらたく言えば丸刈りのぼうず頭だよ♪

21
って、おい! なんで丸刈りなんだよ! 手ぇ抜きすぎだろ!
えへへ、ごめーんチャイ。
私、植物以外はチョキチョキできないんだよね……
なんていうか~ フェイスラインとか?
ヘムラインとかよくわかんなくて~

22
あ、ごめんごめん。 つい職業用語で言っちゃった。
顎と首の境目とか生え際のことだよ。

いやぁ、フツー逆だろ。
どーみても植物に生え際とかあるようには見えねーぞ……


こうして、ちょっぴり不思議なゆるふわ庭師のコワフュールが、
一行の旅に加わるのだった。

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