01
とある町で開催される武闘大会の話を耳に挟んだ冷凍マグロ一行。
一行は腕試しに大会へ出場することを決めて、開催地である町へ向かう。
しかし、会場近くに置かれた立札には武闘大会中止の旨が書かれており、
一行は困惑していた。

02
マジかよ…… うーん、こりゃ一体……
ああ、アンタらも参加希望者か…… 悪いねぇ……  こんなことになっちまって。
あの、どうして中止に――
貴様らァッ! それでも戦士かッ!

突如響いた声がルリアの言葉を遮る。 一行は驚きつつ、声が聞こえてきた方を見た。

03
戦う前から逃げるなど、臆病者にも程がある!!
恥を知れッ!!


04
んなっ!? あ、アイツ!!  まさかフォルテかっ!?
えっ? あの人、ビィさんのお知り合いなんですか?
そういう訳じゃねぇけど、アイツはすげぇ有名な奴なんだよ。
05
そう、そこの爬虫類が言う通り、
あの人は魔竜たちダークドラグーンを束ねる団長。
確かな実力を持つ戦士、魔竜戦士フォルテさんだよ。

だ、ダークドラグーン……? 騎空団ですか?
06
ああ、出会った奴を片っ端からぶっ倒す、
あぶねぇ団だってよく噂になってるんだ。

ただ、魔物も人間も善悪関係なくぶっ倒すが、弱者には手を出さない。
そのせいか、英雄とも呼ばれてるな

07
ふわぁ……そんなにすごい団の団長さんなんですね、あの方は……
あー……なるほどなぁ…… オイラなんとなくわかったぜ……
アイツらが参加するから、全員、大会を棄権したんだな?

話が早くて助かる。 情けない奴らが集まったもんだ。
まぁ、俺も戦うとなったら逃げるが……


08
ああ、不愉快だ……!
武闘大会であるというのに一切戦えずに帰還するというのは……

まぁまぁ、いいじゃないっすか!
戦う前にみんな逃げちまったってことはそんだけ、頭が強いってことっすよ。
それに不戦勝も勝ちっすよ! 勝てたんだからいいじゃないっすか!

……なんだと?

女性は自身を押えていた部下を睨む。
空気が凍てつき、冷凍マグロは遠くにいるはずなのに凄まじい気迫を覚える。

09
戦わずにして得られた勝利に、何の意味があるというのだ!!
不戦勝も勝ちだと……? 腑抜けたことを言うな!
それは勝利ではない!!

ひっ、す、すみません……
……構わん。 ただ、心に留めろ。
10
貴様も戦士なら、私と共に覇道を歩むなら、飢えろ。
勝利に、戦いに、貪欲に飢えろ。

は、はい……!!

11
す、すっげぇな……
オイラ、こんなに離れてるし、睨まれたわけじゃねぇのに……
ぞっとしちまったぜ…… なんつー気迫だよ……


冷凍マグロは緊張した様子で、ビィの言葉に頷く。
しかし、冷凍マグロは戦いに対し、真っ直ぐな誇りを抱くフォルテと、
手合せをしたいと感じ始めていた。

12
貴様らッ! もう一度聞くぞッ!! 私に挑まんとする戦士はいないのか!
私の闘争心を、満たさんとする者は!!


フォルテの言葉に人々が鎮まり返る中、
冷凍マグロは武者震いを起こす腕をゆっくりとあげた。

13
お前……へへっ、そうだな!
おいら達は腕試しにきたんだ! このままじゃ帰れねぇもんな!

ほう……、 一人いるじゃないか。 いい戦士が……!
貴様、名はなんという。


冷凍マグロは名乗り、静かに剣を構える。

14
冷凍マグロ……いい名前だな。
それに竜を連れる戦士ときたか…… ふふふ、面白い……!!
冷凍マグロ! 全力で来いッ!!
その刃、我が暗黒の翼に届き得るか、試してみるがいいッ!!


頷いた冷凍マグロは全力でフォルテに向けて刃を振う。

15
(はやいッ!!)

刃はフォルテの頬を僅かに掠め、
彼女は一瞬、驚きとも喜びとも取れる表情を浮かべながら、姿を消す。

16
ッ!!? 後ろだッ!! 冷凍マグロ!!

ビィの声に反応し、冷凍マグロは振り返りながら刃を振う。
しかし、冷凍マグロの刃はフォルテに往なされてしまう。

17
くはっ、いいぞ!! いいぞ貴様ッ!!
力だけではたどり着けぬ、信念や想いが込められた一撃だ……!!
いいぞ……! 久方振りに肝が冷えた!


嬉しそうに笑うフォルテはなぜか武器を下ろし、冷凍マグロに近付いて行く。

18
あっ……
あっ、って…… どうしたんだ?
頭の悪癖がだな…… 秩序の騎空団とやりあった時以来か……?
えっ? それはえっと、どういう……
今にわかるさ……

19
貴様は未だ咲かぬ花…… しかし、美しく気高く逞しい……
ふふふふ、育てたくなってきた。
決めた、決めたぞ!! 貴様、今から我らダークドラグーンの一員となれ!

えぇええっ!? な、なんだってぇ!?
あ、あの! 冷凍マグロは…… 私達と一緒に旅をしてるんです!
20
そうだぜ! 冷凍マグロはオイラ達の騎空団の団長なんだ!
だからお前の団には入れねぇよ!

ふむ、無理か…… それなら仕方あるまいな……
お、おう…… 妙に聞き分けいいんだな……
21
よし、なら私が貴様らの旅に同行する!
貴様のような逸材…… 決して逃すわけには行かんからな!
おい! しばらく留守にする! 団を任せたぞ!!

了解ッ!
22
ま、まてまてまて!! なんで勝手に話が進んでるんだ!?
てか、お前もすんなり了解するなよ!

いやぁ、いつものことだからなぁ……
頭、自分が育てたいと思った奴にはとことん付きっ切りになるんだよ。

それ、自分の手で育てた強い戦士と戦うためらしいっすね。
おお…… なんつー理由だ……
23
まぁ、ああ見えても頭は、
なんだかんだいって優しいんで、安心してくださいよ!

本当か……? 
オイラには戦いが大好きな奴にしか、みえねぇけども……

24
おい、小竜! なにをごちゃごちゃと話している! 艇へ早く案内しろ!
そこで冷凍マグロに鍛錬をつける!

お、おう……

一行がフォルテを案内しようとした矢先、空腹を訴える可愛い音が鳴る。

25
はうっ……あ、えっと…… ご、ごめんなさい……
なぜ謝るんだ。 空腹ならそう言うといい。
……まさか貴様ら、飯はまだなのか?

は、はい。 お昼はまだです。
26
ふむ。ならば先に食事だな。
ちゃんと栄養を取らねば、強くはなれないからな!
食いたい料理があるなら言え。 私が用意してやる。

>フォルテのおすすめで
む。なるほど…… ならば肉料理はどうだ?
お肉の料理……! 楽しみです!
27
サラダも用意するからな。
肉だけじゃなく、野菜もちゃんと食べるんだぞ。

はいっ! お野菜もちゃんと食べます!
フフフ、いい返事だ! さぁ、買い出しへ行くぞ!

フォルテはそう言うと、先へと歩き出す。
誇り高き戦士のフォルテが仄かに見せた優しさを一行は感じながら、
彼女の後をついて行くのだった。

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