01
うぅ…… 冷凍マグロ、しっかりして下さい。

突然、原因不明の熱を出した冷凍マグロの治療のために、
一行はとある街に滞在していた。
街の医者にかかってはいるものの
なかなか良くならない病状にもう何日も苦しんでいる。
今日もまた改めて診察を受け、薬をもらってきた帰りだった。

02
とりあえず…… 早くグランサイファーに戻って休ませてやろうぜ。
はい、そうですね…… 冷凍マグロ、後少しです! がんばりましょう!

仲間に励まされながら重い手足を動かす冷凍マグロだったが、
熱で朦朧とする身体がぐらりと傾く。

03
わわわっ! 冷凍マグロっ!
おっと……危ない危ない。

倒れかけた冷凍マグロは寸でのところでエルーンの青年に支えられた。

04
うわっ、大丈夫か!? 冷凍マグロ。
兄ちゃん、コイツを支えてくれてありがとな!

いえいえ。
でも、そんなにふらついて大丈夫ですか?

05
顔色が随分悪いですね。 それに熱もかなり高い。
どこかで診てもらった方がいいのでは?

それが……
お医者さんにも診てもらってるのに、もう何日も熱が下がらないんです……

なるほど。 ちょっと、僕が診てもいいですか?
06
なんだぁ? 兄ちゃん、医者かなんかなのか?
いやぁ、しがない薬売りですが少しは役に立てるかもしれませんので。

薬売りの青年は、冷凍マグロの脈を取ったり口腔を覗いてから小さく首を傾げる。

07
あなた達、旅の人ですか?
まぁな! オイラ達は騎空士なんだ。
冷凍マグロが団長なんだぜ!

ああ、騎空士さんでしたか。 どうりで……
08
え? 何かわかったんですか?

この薬では、効かないでしょうね。
もし良かったら、別の薬を処方しますよ。

なんだって!? あの医者、見立てを間違ったってのか?
09
この島では見られない病気ですからわからなかったんだと思います。
別の島で感染したんでしょうね。


青年は冷凍マグロのために、新しく薬を調合してくれる。

10
この薬を飲んで、今晩安静にしていれば明日には熱も下がるはずです。
良かったな! 冷凍マグロ。 兄ちゃん、ありがとな!
あ、金を払わねぇとな。いくらだ?

そうですね、じゃあ――


青年が提示してきたのは、冷凍マグロ達でもわかるほど法外な金額だった。

11
なんだってぇ!?
それはちょっと、高すぎねぇか!? なあ冷凍マグロ?

>何とか用意するよ
おいおい……どうするつもりだよ。
オイラ達はこの先も旅を続けなきゃなんねーってのに……

12
はぁ……冗談ですよ。
なんだって? 冗談だぁ?
いやぁ、流石に高すぎますよ。
あなた達、そこまで世間知らずじゃなかったみたいですねぇ。

13
んん? この兄ちゃん、今スゲェ失礼なこと言わなかったか?

まあまあ、気にしないで。
お代はいりません。初回サービスにしておきます。
ええっ!? そんな……いいんですか?

14
はい。 そのかわり、今後どうぞごひいきに。
あ、僕、シャオといいますので。

はい! シャオさんですね。 本当にありがとうございます!
では、お大事に。

シャオの言った通り冷凍マグロの熱は、翌日にはすっかり下がった。

15
良かったな、冷凍マグロ!
あの兄ちゃん、変な奴だったけど腕は確かだったんだな!
う~ん、もっと他にも薬売ってもらえばよかったぜ。

16
それじゃあ、もう一度シャオさんに会いに行きましょう!
ちゃんとお礼も言いたいですし。


しかし、昨日会った場所にシャオの姿はなく、
一行は市場の方まで足をのばしていた。

17
なぁ、あそこ見ろよ。
薬売ってるおっちゃんがいるぞ。 ちょっと聞いてみようぜ!
いらっしゃい!
なぁ、おっちゃん。
昨日あっちの路地にいた、エルーンの薬売りのこと知らねぇか?

18
何だと? エルーンの薬売り?
それって、でかい薬箱を持った目が細い男か?

そうです!
知ってるんですか? 私達その人にお世話になったので探してて……

はぁ? てめぇらもしかして、あいつの知り合いか!?
あいつはどこにいる!

19
いや、その……だから……
オイラ達はそれを聞きたくて……

トカゲ、正直に吐いた方がいいぞ? じゃねぇと……
うわっ! なんだこいつら!?
20
おい、こいつらつかまえろ!
痛めつけて、あいつの居場所を吐かせるんだ!

はわっ!? ど、どうしましょう!
こうしちゃいらんねぇ! に、逃げるぞ!

わけもわからないまま、冷凍マグロ達はその場から駆け出した。

21
ぜぇ……はぁ…… なんでオイラ達、逃げてんだ!?
おい! 待ちやがれ!
まったく……
あんなガラの悪い奴らに追われるなんて昨日の兄ちゃん、一体何者だ!?

ああっ! あそこ、見てください!
いたぞ! おーい、薬売りの兄ちゃん!
22
おやぁ? 皆さんお揃いで息を切らせて、何かの特訓ですか?
んなワケあるかぁ!
なんかおっかない奴らがお前のこと探してんだよ!

よしっ! 観念しやがれ!
23
うわ、来たぞぉ! 追い付かれちまう!
あの人達が僕を? うーん……なるほど。

頷いたシャオはおもむろに、ならず者達の前に出た。

24
へえ、お前だな? エルーンの薬売りってのは!
ははあ、そうですね。 僕にご用だそうですが、どこかでお会いしましたか?
おいおい、こちとらお前のおかげで商売あがったりなんだよ!
そうだ。 てめぇ、隣町で俺らの客に余計なこと吹き込みやがっただろ!?
25
ああ、あの時の。 偽物の薬を売りさばいていた人達でしたか。
僕は、それ薬じゃないですよ、って
本当のことを教えて差し上げただけなんですけどね。

おい! それが余計なことだって言ってんだろうがァ!
26
それにしても、あの偽薬ですけど、
小麦粉と少しの香辛料と……毒にも薬にもならないただの粉でしたねぇ。
やることが随分と小さいなって、むしろ笑えましたよ。

くそっ…… 言わせておけば!
27
お、おい…… あんま怒らせたら……
……まあとにかく、チンケな詐欺師さん達には用はありませんので。

シャオはくるりと振り向いて冷凍マグロ達を見渡す。

28
というわけで、後はお願いしますね。
は、はぁ…… どういうことですか?

そして、シャオはその場から走り出す。

29
くっ……待ちやがれ!! てめぇらもだ!!
……って、ええっ!? なんでオイラ達まで……!?

そして再び、冷凍マグロ達とならず者の追いかけっこが始まり、
やがてシャオに追いつく。

30
あれぇ? なんで付いてくるんですか?
なんだよ! 兄ちゃんこそ、後は頼むってどーいうことだよ!

そうして言い合っているうちにも追いかけてくるならず者達との距離は縮まっていく。

31
くそぅ! おい兄ちゃん! なんかいい裏道とか知らねーのか!?
そうですね…… ああ、このすぐ先に右に入る路地があって……
よぉし! 右だな! いくぞ!

冷凍マグロ達は、そろって路地へと飛び込み、狭い道をそのまま走る。

32
なぁ、兄ちゃん! そんでこの後はどーしたら……
って、あれ?

わわっ! シャオさんがいません!
33
はっはっはっ!  逃げても無駄だァ!
いい加減、観念しやがれェ!!

くっそー! どうなってんだよ!!

34
はぁ…… まったく、ひどい目にあったぜ……

ならず者達をなんとかまいて、一行はやっとグランサイファーへと戻ってきた。

35
ルリア、転んだとこ、大丈夫か?
はい、ちょっと擦りむいちゃいましたけど……
ああ、皆さん! おかえりなさい。
んなっ! 兄ちゃん、なんでこんなところに!?
36
いやぁ、お礼をと思いまして。
先程は追手を引き受けていただいてありがとうございました。

おい、こら! 引き受けたつもりはねぇぞ!
おやぁ? そうなんですか?
37
だって、兄ちゃんが路地に入れって言うからそうしたのに……
気が付いたらいなくなってるしよ……

え? 僕、路地があるとは言ったけどそこに入りましょうとは言ってないですよ?
そりゃないぜ……
38
そんなことより……
お嬢さんのその膝、大丈夫ですか? 手当てしましょうか。

わわっ、ありがとうございます!
それにしても…… 病気やら怪我やら、危なっかしい人達ですねえ。
えへへ……
39
笑いごとではないですよ?
さっきのように、偽物の薬を売る人や正確な診断ができない医者もいます。
そもそも、薬と毒は紙一重なんです。 十分気を付けた方がいい。
あなた達、騙されやすそうですしねぇ。

40
あうー…… 気を付けます……
そもそも、僕が悪人だったら、
昨日渡した薬や今使っているのも毒かもしれませんよ?
実際、僕は毒にも詳しいですからねぇ。

お、おい兄ちゃん…… まさか……!?
嫌だなぁ、冗談ですよ。
41
おい、こら! その冗談、全然笑えねぇよ!
そうですか? まあ、警告ということで……
ほら、手当て終わりましたよ。

ありがとうございます!
42
はい、お大事に。さて、と……
あの詐欺師さん達に見つかる前に出発しますかねぇ。

あれ? シャオさんはこの街の人じゃないんですか?
違いますよ。 薬を売りながらあっちこっちを巡ってます。
43
へぇーそうなんですね!
うーんと……あ、そうだ! それなら、私達と一緒にいきませんか?
え、あ、おい! ルリア、何言い出すんだ!
だって、シャオさんの薬ってすごいです! 
冷凍マグロの病気もすぐ治っちゃいました。

44
それに……さっきのお話聞いて薬ってちょっと怖いんだなって思っちゃって……
だから、シャオさんみたいにすごい薬師さんが仲間になってくれたら
安心なのに、って思って!

おや? そこまで言ってもらえるとは驚きました。そうですねぇ……
団長さんはどう思いますか?

>一緒に来たいの?
45
おやおや、質問に質問で返されてしまいましたか。
そうですねぇ……
あなた達、面白そうだとは思います。
特に……その喋るトカゲさんにはすごく興味あります。

46
オイラはトカゲじゃねぇ! ドラゴンだ!
これは失礼。 トカゲよりもドラゴンの方がずっと貴重ですよね。
そうそう!
47
全身どこもかしこも使えるんですよ、薬の材料として。 無駄がありません。
って、おい! やめてくれよぉ!
冗談ですよ。
だから! 分かりにくいんだって! 冷凍マグロも、何笑ってるんだよぉ!
48
じゃあ…… ご一緒させてもらいましょうか。
……まあ、騎空艇があった方が色々と都合も良さそうですしね。
んん? 何か言ったか?
いえいえ、なんでもありません。 皆さん、よろしくお願いしますね。


こうして、薬師のシャオが騎空団の仲間となった。
その笑顔の下に隠した彼の本心は、まだ誰も知らないのだった――

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