リュミエール聖騎士団、聖講堂──
神聖にして厳粛な空気満ちる聖講堂に、凜とした声が響き渡る。
ふむ、部隊長殿より下されし密命を読み上げる。心して聞かれよ。
しかし近頃、リュミエール聖騎士団を軽々に退団する者が多い。
とりわけ、団長の不在は誠に由々しき事態である。
嗚呼、斯くは誉れ高き栄光の聖騎士団の規律を乱し、
偉大なる聖王猊下の歴史と御名を汚さん!
うむ、汝、裏切り者を探し出し、即時、正義審問を執行されたし!
ハッ、我が身と剣は尊き御心に、全ては正義の為に……
(ハーヴィン種特有の、戦いに圧倒的に不向きな体躯をものともせず、
種族差を覆すほどの剣技とカリスマ……)
(誰もが認めるリュミエール聖騎士団歴代最強の長、
シャルロッテ・フェニヤ……)
(私の記憶する限り、此度の正義審問、斯くも辛い任務はないだろう……)
斯くして、リュミエール聖騎士団遊撃部より一振りの碧き剣が解き放たれた──
冷凍マグロ一行は、シェロカルテからとある依頼の連絡を受け、
依頼者が待つという食堂へ来ていた。
しかし、約束の時間はとうに過ぎ、
もう随分と経ってはいるが依頼者の現れる気配はなかった。
冷凍マグロ達が、諦めて帰ろうかと席を立った瞬間、
突如、女性の歓声が上がる。
まぁ、あんた! 驚いた、えらくいい男じゃなぁい。
ねぇ、ちょっと隣に座りなさいよ。
あらやだ、本当!
こんなにいい男、あたしゃ生まれて初めて見たよ。
あれ? 何でしょう…… ひょっとして依頼者のひとでしょうか?
そんなルリアの声が届いたのか、
女性に言い寄られていた麗人がゆっくりと近づいて来た。
そして、自分の名をコーデリアと名乗ると、恭しく頭を垂れるのだった。
騎空士の皆様、遅参にてご無礼。
ご婦人方のお誘いを断っていたら、いつしか時を忘れてしまってね。
うわぁ、キザなにぃちゃんだなぁ。 でも、そんだけカッケェなら仕方ねーか。
ふふ、ありがとう。 でもね、小さな紳士君、こう見えても私は女性なのだよ。
って、ええっ!?
そう切り出す彼女の語る依頼内容は、
どうやら人探しであるらしいのだが、どうもおかしい。
その「人」というのが、どうやら普通の人ではないのである。
失せ人は旅人に聞くのが早い。
方々の島々を飛び回る騎空士殿ならば、ご存知かと思ったのだが……
えーっと…… どんな人を探してるんですか?
ああ、それが少々厄介な者でね……
貴君等はリュミエール聖騎士団と言うものを聞いたことがあるだろうか。
……あれ? そう言えば、そんな人が艇にいたような……
ルリア、ちょっと待てって。 何かこのねぇちゃん、怪しいぞ。
え、怪しい……ですか?
う~ん、よく解んねぇけど、
もう少し聞いてからにした方がいいと思うんだよなぁ……
なぁなぁ、コソコソねぇちゃん、
何で、その…… リュミエールのヤツら探してんだ?
……貴君、知っているのか?
いや、その……
聞いたことねぇけど、なんか気になって、へへへ……
…………
コーデリアは心中を探るような深い洞察の眼を向けると、
一気に鋭く切り込んでいく。
理由は話せない。
任務の都合上、依頼相手と言えども教える訳にはいかないのだ。
え、任務って……
とにかく、貴君等は私とともに聖騎士団関係者を探してくれればいい。
気に入らなければこの依頼は忘れてくれて結構。
他の騎空士に依頼するまでだ。
戸惑うルリア達を余所に、
冷凍マグロは静かに落ち着いた声でコーデリアの申し出を快諾した。
おい、冷凍マグロ、何でこんな依頼、受けちまうんだよ。
そうですよ、団の人が危険な目に遭っちゃうかも知れないんですよ。
あれ? 違うぞ…… ルリア、逆だよ。
え? 逆……?
だからぁ、依頼を受けちまえば、
かえって疑いの目がオイラ達に向くことがねぇってことだよ。
それに、探すふりして違う方へもってきゃバレる心配もねーしな。
な、そうなんだろ、冷凍マグロ。
なるほど、そうだったんですね。 流石、冷凍マグロです!
ん? どうした。 何が流石なのだ。
わわわ、いえ、何でもないです!
そうか…… ならば交渉成立だ。 早速仕事にかかってもらおう。
一行は、この通りでそれらしき者を見たという噂を耳にして、
その者達に聞き込みをしていた。
あら、素敵なお方! あなたですね、人を探してるって。
まぁまぁ、うふふ、素敵ねぇ…… いいわ、早く聞いてちょうだい。
私、何でも話しちゃうから♪
ああ、助かるよ。 麗しのご婦人方……
──と、甘い声で語りかけ、笑顔で近づいた瞬間だった。
突如、婦人のひとりが鋭いナイフを突き立てる。
──ッ!?
コーデリアは寸前のところで何とかそれをかわし、
素早く婦人の腕をとって組み伏せた。
はわわわわーっ…… どうなってるんですか!?
ふふ、任務の遂行上、噂好きのご婦人方との交流は必要不可欠でね。
その際、私の端麗な容姿は何かと都合が良く、
悪くないと思っていたのだが……
稀にあるのだよ。 こうした、騙し合いがね。
ねえ、そうなのだろう? 帝国諜報部の方々よ。
婦人達は狼狽した様子で互いの顔を見合わせるが、何かを覚悟して示し合せる。
一転、婦人の顔が冷たいものに変わり、正体がバレたことで開き直ったと見え、
不敵な笑みで短刀を抜いた。
くっ……おのれぇっ! リュミエールの雌狐、コーデリア・ガーネットめ!
ふふふ、覚悟しろ…… 帝国に仇為す工作員は我々が一匹残らず駆逐する!
牙を剥いた婦人達が一斉に襲いかかってくる。
コーデリアは、冷凍マグロ達の前に立ち塞がるように構え、
凜として優しく囁くのだった。
貴君等、依頼はここまでだ。 後は私に任せ、貴君等は逃げ給え。
しかし、冷凍マグロ達に逃げるつもりは端からない。
武器を構え、迫りくる危機に備える。
貴君等は…… ふふ、まったく呆れた方々だ。
多勢に無勢、死を覚悟するほどの戦闘であったが、
冷凍マグロ達の助力により無事に切り抜けることができた。
コーデリアは一行に感謝を述べると、
少しぎこちない笑顔を向けて自らの素性を話し始めるのであった。
巻き込んでしまった以上、話さざるを得ないか……
私はリュミエール聖騎士団遊撃隊、最後の切り札コーデリア・ガーネット。
遊撃隊とは、戦時の際には哨戒、攪乱、陽動等を専らとし、
主要部隊のサポートに回る特殊戦術部隊のことだ。
普段は諜報活動や内偵捜査に就き、
籠絡や暗殺など工作員の如き秘密任務に従事することが多い。
中でも私は、団内の仲間から裏切り者や不正行為を暴き告発する
「正義審問」で絶大な信頼を得てきた。
身内を疑う任務の為、団内でも私を嫌う者は多くてね。
自然と、信じることを忘れてしまっていたのだが……
ねぇねぇ、コーデリアさん。 正義審問って、どんなものなんですか?
ふふ、説明するより、やって見せた方が早そうだね。
コーデリアは微笑して、戯れに冷凍マグロに向けてそれをやってみせる。
聖王猊下の偉大なる御名の下、リュミエール聖騎士団が正義審問に則り
いざ、神妙に貴君に問わん。
貴君にとりて、正義とは何ぞや。
この碧き剣に誓い、返答なされよ!
>正義とは……ええっと……
ふふ、皆の前で言うのは恥ずかしいか。
貴君の仲間を想っての行為すべて、それこそが正義だと言いたいのだろう?
この時、コーデリアは何かに気づき、ついに確信へと至る。
そして豪快に笑うのだった。
あはははは…… そうか、やはりそういうことか。
貴君、本当は知っているね? 私の探している者達の行方を……
ええーっ!?
いや、いいのだ。 無理に聞くつもりはない。
その黙秘こそ、貴君の正義なのだから。
ふふ、だがこんな危険な騎空団、
監視を続けぬ訳にはいかなくなってしまったな……
え、まさか…… コーデリアさんも、一緒に……?
おいおい、コソコソねぇちゃん、
大体そんなこと大っぴらにして監視なんて務まんのかよぅ……
ああ、問題ない。 ハンデみたいなものだ。
斯くして、禁秘の騎士コーデリアが一行の旅に加わるようになったのだが、
以来、艇内は妙な緊張感に悩まされる。
コメント
コメント一覧 (29)
バウタオーダ→OK
ブリジール→セーフ
団長→?
いろいろと良キャラ
確かにリュミエールイベの前にチェックしておいたほうが・・?
こんなちっちゃい子が騎士団とかハハハ
ください
騎空団そのものの中に騎士団取り込んでるしな
※10
昔、「維新開国」ってゲームで、松下村塾と新選組丸ごと取り込んだこと思い出す
それに胸なんか年取れば垂れるから、将来的には慎ましい方の方が美人な時間が長いって。
ガレスのこと忘れてない?
甲冑着てるから脱いだらどうなるかわからんよ
「団長も副団長もいなくなったのに騎士団だけ残るなんて滑稽だわ!」
「何度でもよみがえってやるさ!」
君も私たちの騎士団に入らないかね。
ガレスは既に脱いでる絵があるしそこそこ大きいぞ
せめてSRに昇格させてほしい
⚪リトくんはいないけど声がよく似たシャノなんとかさんさんなら輝剣クラウ・ソラス付きで差し上げます
聖王猊下やこの記事で見える聖講堂や審問から、宗教国辺りかな?
小説(メンバーズフェイト2)でかなり詳細に書かれてる
団長が団長になる前の時点で超重要な戦略拠点のトップを任される
上級幹部ってのが結構意外だったよ