01
ば、馬鹿な……!?
よせ、やめろ! 俺に触るんじゃねェ!
あぁ、畜生! いったい俺に何を…… って、おいおいおい!?
うおぉぉぉ──!


02
ぷおん♪
ぷぉんぷぉん、ぷぉーん♪
ぱらりらぱらりら♪ ぷっぷぅぷおぉ~ん♪

03
……グッド。
最初は冗談じゃねェと思ったさ。 世の中ひでェ奴がいるもんだってな。
でもよ……

04
湧水だ、うまいぞ。
信じられるか? わざわざ水を汲んで来やがったんだ。
……こんな俺のために、たっぷりとな。
その水は確かに俺を活かした。
ただ死を待つより他なかった俺に、いわば存在意義ってヤツを与えたのさ。

05
ここが俺の居場所…… いや、お嬢の居場所が俺になるんだと。
そうして幾許かの月日が経ち…… お嬢は騎空団と旅をすることになった。
お嬢の感性にピッタリの連中で、空の風に吹かれて愉快な日々だったぜ。
だが、灯台もと暗しってヤツだ。 俺も安心して気が緩んじまったのさ──

06
ぼぇ……
お、おい、大丈夫か? 一体どうしたってんだよ?
……死ぬ。
そんな…… 怪我はしてないようですし、どこか具合が悪いんですか?
07
……死んだ。
参ったぜ…… 最近ずっと、この調子だもんなぁ。 飯も食わねぇし、どうなってんだ?
心配です…… こんなミムちゃん、初めて見ました。 なんとかしてあげないと。
あぅ……
08
でもよぉ、どうすりゃあいいんだ? 原因を聞いても呻いてばっかだぜ。
う~ん…… 説明する元気もないみたいですね……
あぁ、相当な重症だな。
いつもは笛でなんか伝えて来るけど、調子が悪すぎてそれも出来ねぇのか?

09
うん? そういえばミムちゃん、笛は……?
はぁ……
え、あ、おい! っていうか最近あの笛を見てねぇぞ!?
はわ!? ほ、本当です、音色も聴いてないです!
10
なるほどな、じゃあ…… 笛をどっかにやっちまったってことか?
はい、きっとそうです! それが塞ぎ込んでる原因なんです。
ミムちゃん、笛のある所に心あたりは?

……ない。
えっとぉ…… ほんとになんもねぇのか? 落としたとか盗まれたとかさ。
11
ねーよ、ねーんだよ!
……すまん。

はうぅ、困りましたね……
ミムちゃんにもわからないとなると、どうやって捜せばいいんでしょうか?

12
う~ん、不思議だな……
あんなにでっかい笛が、いつの間にか消えちまうなんてよ。
とりあえず他の団員にも聞いてみるか。
オイラは艇にいるラカムに相談するぜ!

13
わかりました! じゃあ、私はカタリナに聞いてみます。
ミムちゃん、ここで待ってて下さいね?

ぼぇ……はぁ……
チィッ…… 俺としたことが、なんてザマだ。
14
お嬢の一大事だ。 切り株ってらんねェな。
だが笛か……
お嬢でさえ失った瞬間がわからず、誰の目にも留まらなかったとすると──

グオォォォン!
うるせェ、取り込み中だ。
15
グオォ……!?
ん……? なんで魔物が倒れてる?
…………
どうでもいい。

フッ…… お嬢は誰にも傷つけさせやしねェさ。
16
待っていろ。
この俺が笛を見つけて、お嬢を救ってみせるぜ……!


自我を宿した謎の切り株は、絶妙な体重移動で車輪に働きかけた。
その言葉は人間に届かないが、それでも主と定めた彼女のために……
自走する切り株の冒険が今、始まる。

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